クリスマスソングとロストテクノロジー

 カレー、味噌汁、かき氷

 今年のクリスマスには、できるだけクリスマスらしからぬものを食べよう。そう企画して、子どもたちと一緒に考えたメニュー(暫定)がカレー、味噌汁、かき氷の組み合わせだ。
 確かにクリスマスからは遠いメニューではあるが、組み合わせにインパクトがない。とくに、カレーと味噌汁の組み合わせ。松屋を思い起こさせる。

 松屋が牛丼屋に偽装したカレー屋であることに異論はないと思う。本物のカレー通であれば、おいしいカレー屋リストの中に松屋が記録されているはずである。
 そして、松屋といえば、あらゆるメニューに味噌汁を付けてくる。それはカレーであっても例外ではない。カレーと味噌汁のコンビネーションは、牛丼屋に偽装したカレー屋であるところの松屋においては、とりたてて言及するまでもないものなのだ。

 松屋でお昼を済ませた後、商業ビルが連なった施設を徘徊している。中に入っているショップを出入りするたびに、リュックが少しずつ重たくなっていく。
 これ以上は地球の重力の影響が増大しないようにと心に決めつつ、施設内の書店に立ち寄る。最初に目に入ってくる雑誌コーナーは、映画公開が近い一人の俳優の顔で埋め尽くされていた。

 昔から「押しつけられる」ことが苦手で、芸能界の「ゴリ押し」という手法にうんざりしている。どのテレビ番組、どのメディアを見ても、その時のプロダクションが売り出したい俳優が出演している。同時期に複数チャネルに出没する彼ら/彼女らを見て、影武者かドッペルゲンガーかと思うくらいである。
 この状況にひどく疲れてしまう。

 商業施設に話を戻すと、この時期、クリスマスの「ゴリ押し」が激しく展開されている。日本の「クリスマス」は商業用語なので当然ではある。
 バレンタインデーがチョコレート業界による独占状態なのに対して、クリスマスを独占している業界は存在しないため、あらゆるショップがその恩恵を受けようとゴリ押しに荷担している。
 ちなみに、僕は、ハロウィンを誰が支配するのかに注目している。日本では普及して間もないため、仮装以外は、まだそれほど消費活動とは結びついていないように見える。個人的には出版業界に頑張ってもらって、ハロウィンに本を送りあうカルチャーを定着させて欲しいと思っている。

 さて、クリスマスをゴリ押しする手法としては、ツリーやウインドウステッカーなど様々だが、やはり店内BGMはかかせない。どのショップに入っても、クリスマスソングが流れている。
 マライア・キャリー『恋人たちのクリスマス』、ジョン・レノン『ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)』、山下達郎『クリスマス・イブ』があちらこちらから聞こえてくる。
 定番のクリスマスソングではあるが、どこへ行ってもマライア・キャリー、ジョン・レノン、山下達郎が歌っていて驚いた。Z世代の定番クリスマスソングは存在しないのだろうか。

 余談だが、B’z『いつかのメリークリスマス』がショップで流れている頻度が低いのは、あまりにも切ない歌声のせいだろうか。いつもはウルトラ躁状態の稲葉浩志が何故だかわからず泣く様子に購買意欲は落ち込んでしまうだろう。椅子は売れるかもしれないが。
 山下達郎と一緒に竹内まりやも入っていても良さそうな来もするけれど、あれはタイトルで損をしているのかもしれない。
 とは言え、B’zも竹内まりやもここで話題に挙げられるという時点で、定番には違いない。

 2000年以降、それほどのポジションを確立したクリスマスソングはあるのだろうか。もちろん、いくつかは思い付くのだけど、なんだか物足りない。

 定番クリスマスソングについて考えていると、『風の谷のナウシカ』に登場する「ペジテ市」を思い出す。最終戦争により高度産業文明が崩壊してから1000年後の物語だ。
 エンジンを造る技術は失われており、この世界の人々は、崩壊した文明の遺したエンジンを地中から発掘して利用している。そのエンジンを発掘して加工供給する都市が「ペジテ市」である。

 1999年の7の月、人類は滅亡しなかった。しかし、新たな定番クリスマスソングを作り出す技術は失われてしまっていたのだ。
 現代のペジテ市では、地中深くからクリスマスソングを発掘し、それを全国のクリスマスゴリ押し協会加盟店に送り届けている。ちなみに、地中から発掘された山下達郎は先日PARCOでアコースティックライブ展を開催していた。

 定番クリスマスソングがロストテクノロジーとなった現在。しかし、新たなテクノロジーも生まれつつあるように思う。新旧のテクノロジーをミックスさせる技巧派な音楽の民が、日々、斬新な楽曲を作り出している。
 また、インターネットの中で自由に活動できる新生代の音楽の民は、もはや「定番」であることに拘らない。彼ら/彼女らの手によって、クリスマスソングの概念そのものが書き換えられる可能性もある。
 1999年の7の月、人類はアップデートされた。しかし、その答えが出るまでは、まだ長い年月がかかるだろう。

 松屋を牛丼屋に偽装したカレー屋と認識するくらいにはリアリストな自分としては「雨が夜更けすぎに雪へと変わったら、地面はけっこうベチャベチャだな。歩くのしんどいな」と考えてしまうのだけど、雨が夜更け過ぎに雪へと変わるクリスマスシーズンは来年以降も続きそうだ。

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